【2017中学入試】「頑張れば報われる」は幻想? 新時代を生き抜くほんとうの力を身につけるために。

(株) 花まるラボ代表 川島 慶

中学受験残酷物語。「感覚」という名の魔物。

中学入試には、残酷な一面があります。
トップ校の入試算数は、東大生が解いても、時間内で合格点を取れる人は多くありません。
それほど特別な問題に対応すべく、多くの受験生が時間とお金をかけて対策を積んでいます。

それにも関わらず、合否を決定的に別つのは、複雑な立体図形や平面図形、整数問題に直面したときの、先天的とも思えるような「感覚」の差なのです。それは例えば、

「立体の展開図を頭の中でパッと組み立てられるか」
「平面図形の問題解決のヒントとなる補助線や、正三角形が、あたかもそこ
に書かれているかのようにイメージできるか」
「32と36では色が違って見える(*)、というくらい、整数感覚が優れているか」

といった具合です。
(*)両者を素因数分解すると、32は2だけで構成されているのに対し、36は2と3で構成されているので、整数感覚が非常に発達した人からすると、まるで違う色のように見えます

多くの受験生は、この思考の差を努力で補うべく、30以上ある単元について、1単元あたり30時間ほどの対策学習を行うべく、百万円単位のお金をかけて、進学塾に通うことになります。進学塾についていくために、さらに家庭教師を雇うことも珍しくありません。
しかし、それだけの努力と投資をもってしても、特定の感覚を持っている子とそうでない子との差が埋まるとは限らないのが、中学受験の現実です。

ジアタマが、人生を切り拓く。

こういった感覚の根本には、「頭の中でイメージを浮かべることが出来、更にそのイメージの操作を意欲を持って行える」力があり、これを私は「ジアタマ」と呼んでいます。

そして、このジアタマの良し悪しは、社会に出てからも、大きな差になっていきます。
例えばアイデアの着想は、異なる2つ以上の知識や経験の掛け算によるものが多いですが、これも、一見異なる2つ以上のことを頭の中でイメージし、そのイメージを操作する=つながりを見つけ出すことによって生まれるものです。

課題に対する論理的な解を見いだす時にも、「Aを前提として、AだったらB、BだったらC」という推論の展開にあたり、同時に考えられる総量が多いほど短時間で解に辿り着くことができます。それも、ノートに丁寧に順を追って書いていくよりも、スタートとゴールを同時に思い浮かべて、双方から俯瞰してイメージがパパパっと繋がって解が導かれることの方が多いのではないでしょうか。
古くから、「一を聞いて十を知る」という表現が優秀であることを指しますが、その通りだと思います。「一」を見たり聞いたりしている間に、それらを抽象化し、「こうだということは、こうだということと同じだな」とイメージできる、考えられるからこそ、それを以って「十」を知ることができるのです。

ジアタマはギフトじゃない。ジアタマの「種」に水をやろう。

「思考力」の土台となるジアタマは、先天的なものと思われがちですが、それだけに拠るものではなく、ちゃんと水をやれば、芽を出し、伸びていくものです。
10年間現場で子どもたちを見てきた経験として、この力は、特に小学生低学年期までに伸びやすい力だと言えます。

ジアタマを伸ばすには、何よりも「考える」ことを大好きで大好きでたまらなくすることです。

孔子は論語において、
「何かを得意になりたかったら、まずは自発的にやること。もっと得意になりたかったら、それを好きで好きでたまらない、という境地に達すること」
という趣旨の言葉を2500年前に残しました。
花まるグループの25年の経験からも、これは全くその通りであり、幼児教育においては特に当てはまると確信しています。

考えることが大好きでたまらなくなれば、イメージする力は自然と育っていきます。
そして、イメージする力や、それを操作する力が強い=ジアタマが良いからこそ、考えることが更に好きになります。

何でもないかくれんぼ一つを例にとっても、「あはは、見つかっちゃった」で終わる子と、
「絶対見つかるもんか!」と張り切る子では、「あの木の裏側はどうなっているだろうか」とイメージする意欲が違います。
意欲が違えば、イメージする力の成長が違ってくるように、意欲を持てること自体が差を分けますが、同時に、木の裏側をイメージできるからこそ、その子がかくれんぼを面白いと感じ、のめりこめる側面もあるのです。

私自身は、子どもたちが夢中で取り組む中で、自然とジアタマを伸ばすことができる「最高の教材」を目指して、「Think! Think!」というアプリを開発し、公立小学校や児童養護施設、海外孤児院の学習支援にも活用してきました。少しでも子どもたちの将来に貢献出来るよう、引き続き精進して参ります。

長文となりましたが、最後までお付き合い頂き有難うございました。
これからも教育に纏わる事柄を折を見て記事にしていきたいと思っておりますので、引き続き宜しくお願い致します。

著者略歴

  • <著者略歴>
  • 花まるラボ代表取締役 川島 慶

  • 栄光学園中学校・高等学校 卒業
  • 東京大学工学部 卒業、同大学院工学系研究科 修了
  • 2011年
  • 株式会社こうゆう(花まる学習会)入社
  • 公立小学校や児童養護施設、海外孤児院等の学習支援や教員研修を多数手掛ける
  • 2014年
  • 教材開発に特化した組織として株式会社花まるラボを設立、東京大学非常勤講師
  • 2015年~
  • 算数オリンピックの問題作成・解説担当
  • 2016年~
  • 世界最大のオンライン算数大会「世界算数」問題作成担当
  • 花まる学習会代表 高濱正伸との共著に、算数脳パズルなぞぺーシリーズ「迷路なぞぺー」「新はじめてなぞぺー」「絵なぞぺー」など

花まるグループの進学部門『スクールFC』の2017年中学入試特設サイトはこちら

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川島 慶

代表取締役 COO(チーフクリエイティブオフィサー)ワンダーファイ株式会社
東京大学大学院工学系研究科修了。算数・数学好きが昂じて学生時代よりベストセラー問題集「なぞぺ〜」の問題制作に携わる。2007年より花まる学習会で4歳から大学生までを教える傍ら、公立小学校や国内外児童養護施設の学習支援を多数手掛ける。2014年株式会社花まるラボ創業(現:ワンダーファイ)。 開発した思考力育成アプリ「シンクシンク」は世界150カ国250万ユーザー、「Google Play Awards」など受賞多数。2020年にSTEAM領域の通信教育「ワンダーボックス」を発表。算数オリンピックの問題制作に携わり、2017年より三重県数学的思考力育成アドバイザー。