ワンダーファイ 中学入試算数 良問大賞2024

150ヶ国250万人以上のユーザーが使う思考力アプリ「シンクシンク」やSTEAM領域の通信教育「ワンダーボックス」など、子どもの「知的なわくわく」を引き出すようなアプリやコンテンツを作る会社、ワンダーファイ。

ワンダーファイでは、2020年から毎年、独自に中学入試算数の出題傾向や良問をまとめ「中学入試算数 良問大賞」として発表しています。

ワンダーファイでは、算数の思考そのものの楽しさを引き出す問題のことを、「良問」と呼んでいます。日本の中学入試における算数問題は、小学校までに習う公式の範囲までしかでてきません。だからこそ、算数の楽しさが凝縮された問題が多く、もはや日本が世界に誇れる「文化」とも呼べるでしょう。

「中学入試算数 良問大賞」では、このような「良問」を評価することで、中学入試算数の奥深さや楽しさを広め、知的にわくわくする子どもたちがあふれる未来を目指しています。

尚、各校の問題と解答については、こちらの記事をご覧ください。

・対象となる問題はワンダーファイが確認できたものに限定されており、全ての入試問題ではありません。
・本発表はワンダーファイによる独自の選出であり、各学校と一切の関係はなく、金銭的な対価の発生も一切ありません。

ワンダーファイ 中学入試算数 良問大賞2024

1から9を使った四則演算で2024を作るという、多くの受験生が一度は解いたことのあるような内容の問題ですが、斬新なのは出題形式。答えはたくさんあるが、できるだけ少ない数を使って答えるほど得点が大きくなるというスタイルです。
これは「限られた時間での出題で、受験生を選抜しないといけない」という問題作成者の立場からすると、受験生にとって過負荷でなく、答えのみで受験生の理解の解像度を問いやすい、見事な出題形式です。
過去に他校で出題されたこともある形式だとは思いますが、今年開成中学校が出題したことに価値があると感じます。優れた問題形式ですので、今後取り入れる学校が出てくるでしょうし、そうあって欲しいとも思います。

 

20年近く前から、面白い問題を出していると注目しつつも、良問大賞の選出タイミングでは私の手元になく選んでこなかった背景がありましたが、毎年学校のHPに比較的入試直後に発表されているようでした。
近年は、算数の入試が4回開催されており、とてつもない労力をかけて高い質の問題を毎年出していることが問題から見てとれます。全科目の入試問題と解答を発表していることも、なるほどと個人的に納得します。
バランスを考えて、近年は最後の大問として扱われることが多いですが、過去は複数題ずつ、それも複数の日程に跨ってここで取り上げたような会話形式の問題が出題されていました。
この会話形式の魅力は、限られた試験時間の中で、誘導なくしては辿り着けない算数数学の面白さ、不思議さ、神秘さ、美しさを扱える点で、この問題の後半もまさにそうでした。会話形式ではないものの、開成中学校の問題でも近年そういった趣旨の出題が目立ちます。

 

東大寺学園中学校の受賞は3年連続。毎年独創的な問題が出題されています。
「どの隣り合う3個の数字も、真ん中の数字が両隣の数字よりも大きいか、両隣の数字よりも小さい」というルールに合うように、空いているマスに数字を入れていくパズル問題。タフな準備をしてきた受験生からすると、遊びに近いような見た目の問題ですが、後半になるにつれ、場合わけを筋よく行ったり、対称性、対等性をうまく考慮しながら効率よく数えていく必要があり、場合の数としても最高峰の問題です。

 

今では他の多くの学校でも見かけるようになった、考えられる数値や組み合わせを「すべて答えなさい」という出題形式は、栄光学園中学校が古くから独自に採用していたものです。この出題形式の優れた点は、複数ある解答のうち、いくつ探し当てることができるかによって、受験生の試行錯誤の筋の良さや、隈なく思考できているかどうかを、たった一回のテストという機会で、なるべく正当に評価できるところです。
本問も、複数ある答えのうち、1つ見つけることは比較的容易ですが、全て見つけるのは簡単ではありません。出題者の意図通り、受験生が見つける数は段階的に分かれることでしょう。

そんな絶妙な出題でした。そして近年特に、入試を受ける生徒のことや、入試を受けるまでの学習について、とても配慮された出題だと思いました。
それは例えば、入試問題によって、翌年以降過去問を見て対策する受験生の負荷がいたずらに増えないようにといったことまで配慮されている、ということです。見たことがない問題が多く出題されますが、その問題を解いたことがあるかどうか自体は翌年以降の問題には影響はなく、そのため、翌年以降対策のための学習量が増えるわけではない、ということです。他の点については、こちらに記載しています。

 

分野別部門

全体の統括で詳しく触れている問題なので、簡易的に書きますが、近年は比較的パターン化されがちだった切断の問題の面白さを切り開いた名作です。分かっている情報から徐々に謎(どう切断したか)を解明していく面白さに溢れていました。切断や展開図の本質理解も試されています。
なお、開成中学校は2020年に「投影」の問題でも同ジャンルの面白さを切り開く斬新な出題をしています。

格子点を横方向に2倍に拡大したような点の集合から、正方形となる4点を、斜めの
正方形も含めて見つけていく問題。ワンダーファイの知育アプリ「シンクシンク」に出てくる問題の1つ「ましかくさがし」の応用問題ですが、冒頭の設定が斬新で面白さがあります。
駒場東邦中学校は、例年、素直な問題と、今までに見たことのないような思考力を試す面白い問題とをバランスよく出題しています。

 

灘中学校の算数の試験は1日目と2日目に分かれ、1日目は毎年12問前後の小問集合で出題されます。もちろん難易度的には非常に解きごたえのあるものばかりですが、短い文章で構成されたシンプルな問題構成は、比較的とっつきやすく、毎年中学受験史に残るような名作をたくさん生んでいます。
今年もその出題形式は変わらず。問題自体の難易度も大きくは変化せず、その影響もあってか、関東と比較して関西の中学校で出題される問題は比較的高度になりすぎず保たれているように感じます。
今年の名作の1つが、この問題です。スイッチのオンオフ自体は、受験生であれば誰でも知っていながら、誰も見たことがないような設定で、場合の数の本質を問う問題です。

 

売上を表した折れ線グラフから、増減の割合を表すグラフを選択したり(1)、その逆が
あったり(2)、情報を元に言えることをすべて選択する、というような問題です。
割合という概念を正しく身につけているかを高負荷ではなく試せる、まさに「誠実な難問」。聖光学院の出題は近年、限られた時間の中で受験生が取り組みやすく、選抜試験としても機能しやすい点にとても工夫していることが見受けられ、入試問題としてのあるべきバランスが追求されています。

 

サイコロをいくつか並べて、重なっている部分の合計を「ウラの和」、それ以外の部分の合計を「オモテの和」とし、「オモテの和」が「ウラの和」で割り切れる状況を探す問題が本問の中心。形を変えて登場してくる整数分野の最頻出テーマであり、その必要条件を思いつくととても気持ちが良い問題です。サイコロの性質も含めて考える必要があるところが、本問題の面白さにも一層寄与しています。
筑波大学付属駒場中学校の入試は、試験⽇程の違いから開成中学校や⿇布中学校など有名私⽴校との併願が可能なため、実⼒上位の受験⽣たちが120名の定員を競う、男⼦校中学受験でダントツ最難関。受験生の選抜のため、制限時間とのバランスが非常に厳しい問題構成になるのは必然です。毎年難易度は非常に高いですが、本問題は比較的易しい問題でした。

※おまけ:灘中学校(1日目)大問12 問展開図の問題

灘中の最後の問題は、なんと、以前私が作って発表した問題とほぼ全く同じ問題でした。
花まる学習会在籍時(今もグループの一員として大変お世話になっています!!)出版した「大人のなぞぺー」に掲載した問題なのですが、元はと言えば、当時灘中を受験する教え子のために作った問題でした。


問題を当てようとして作ったわけではなく、灘中名物の「みたこともない展開図からできる立体の求積」というテーマに対して、個人的に自然な提示として一題のみ作った問題でした。
ちなみに、究極の立体「展開」というアプリの中には、こういう問題が楽しく解けるようになるための問題(類題)が100題収録されています。




2024年中学入試算数統括

 ワンダーファイ株式会社代表 川島 慶

「誠実な難問」が増え、難易度は過去最高水準

2024年の中学受験算数の入試問題を振り返ると、まずは中学受験を代表する開成の問題が、「知のオリンピック」と例えても過言ではないほど斬新な問題を含んだ過去最高の難易度であったと言えます。

灘、筑駒、桜蔭といった最難関校でも、それぞれの学校らしい高度な出題がなされました。

最難関校のみならず、「こんな舞台に挑戦すること自体、受験生たちはとんでもなくすごい!」というのが、私の率直な感想です。

今年、私の中でも中学入試算数の問題に対する認識に変化がありました。

きっかけは、知人である日本を代表するスタートアップの経営者の方との会話でした。

彼のお子さんも今年中学受験を迎える受験生でしたが、保護者の一人として彼は言います、
「最近の中学受験の問題、とりわけ算数が難しい。自分が受験生だった頃と比べると、格段にレベルが上がっている」と。

昨年の記事では、「誠実な難問」(後述)が増えていることを主張してきましたが、同時に、特に難関校で出題される問題が年々高度で厳しいものになってきている、というのが今年の主張です。

順を追って書きます。
 
私たちが定義する「誠実な難問」とは、「一見、似たような問題や設定を見たことがないものの、本質を正しく理解していれば、基本的な知識をもとに試行錯誤することで極めて自然に解ける、正当な厳しさを伴った問題」です。

要するに、基本的な知識の正しい理解に根ざした、思考力が問われる問題と言えます。

つまり、重箱の隅を突くような知識や解法・パターンを丸暗記する学習では対応しきれず、本質的な理解を促す学習が求められることになります。

インターネットなどを通して問題自体やそれらに対する意見が一般の目にも触れることや、学校同士で自然と刺激しあうことによって、出題形式、問題構成が中学入試全体を取り巻く文化として伝播しており、「誠実な難問」は増えていっています。

同時に、問題自体が高度になっている、ということについては今年の開成で出題された問題を例として記します。

これまで切断を扱った問題としては、「直方体を3回指示されたように切って、切った後どうなるか」を想像する問題が、去年の開成を始め、最難関校でよく出題されていました。

ある程度出題が続くと、学校側は、言われたことを言われた通りに反復するだけでなく、未知の課題にも意欲を持って突破できるような学習をしてきてほしい、という願いも込めて、新しい形式の出題をします。

それが今年の問題で、以前より二段階高度な、「直方体を3回切断した後、残った立体の展開図の一部を示し、どのように切ったか推測していく」という出題形式が、おそらく初めて出題されました(大問3)。

実に面白く私自身もわくわくしながら解いたのですが、今年の受験生にとってはタフな問題だったでしょうし、翌年以降の受験生は、切断に関して従来よりも2段階上の学習を備える必要が出てきます。

こうやって、自然と受験に必要な学習は高度になっていきます。
2018年の記事に書いた、中学受験生が学習する範囲が増える無限ループ構造とも関連します。)

 

中学受験算数の「競技性」が高まっている

これは、開成のような最難関校に挑む受験生たちにとっては、年々知のアップデートが行われているということで、「算数」という基本知識の範囲は変わらないにも関わらず、その基本知識の応用が高度に求められ、より競技としての「競技性」が高くなっているということです。

ここ10年連続で、首都圏における中学入試の受験率が増えていることも、更なる影響を与えているでしょう。


先人の棋譜から学んだり、AIの活用によって、将棋や囲碁の競技性が高く進歩しているのと同様に、中学受験の問題も年々難易度が上がっている面があるように感じます。サッカーなどのスポーツの戦術が成熟していくのと近い要素もあるでしょう。加えて、中学受験特有の要因もあると思います。

中学受験特有の要素の説明として、例えば大学受験でも、東大入試や京大入試の数学を始め、「誠実な難問」が毎年出題されていますが、中学受験ほど競技性は急激に高くなりません。

その理由は2つ。

1つ目は、大学入試数学では、基本的な知識の範囲が広く、また、1つ1つの概念を正しく身につけること自体が大変であるということです。一方で、中学入試算数は、より範囲の狭い基本的な知識の中で高度に応用して出題していく構造になりやすいのです。

もう1つの理由として、大学受験は、一人の大人がその人自身の裁量によって準備して迎えるものであるということです。それに対して、中学受験の場合は、周りの大人が受験生に与える影響が大きいといえるでしょう。
極端な話、入試が近づいたら、学校を休んで一日中学習に向かわせ、大人が徹底的にサポートすることもできてしまいます。

良問大賞でも取り上げたくらい、上に挙げた開成の問題は切断や展開の面白さを切り開く、美しいとすら言える問題だったのですが、こうやって良問大賞として取り上げる立場としても、とても考えさせられました。小学生の有限で貴重な時間を割く健全な学びについて考えると、問題の難度や複雑性を高め続けるのではなく、一定の水準内におさめるような視点も重要だと思います。

中学受験は、確かに、子どもたちが中高6年間を過ごす場が決まる重要なイベントです。ですが同時に、中学受験に関わる保護者や指導者には、中学受験をサッカーやピアノのような、スポーツや競技のようなものと捉える視点も持っていただきたいと感じました。

心身の成長度合いによって、小学生の間にはその競技に有利不利が生じることがありますが、以降の発達次第で追いつく可能性は子どもごとに異なります。
また、算数は以降数学という学問に発展するため、競技のルールや前提そのものが変わっていきます。

今回、中学受験をされたご家庭にお伝えしたいことは、お子さまがどの学校を受けたとしても、ここまで準備をしてきて、挑戦したこと自体が、とんでもなくすごいことだということです。それらをお子さまの未来に価値あるものとして繋げるために、結果がどうであれその準備と挑戦を肯定して欲しいです。

 

さいごに

以上、ワンダーファイ 中学入試算数良問大賞2024でした。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

ご覧いただいた通り、各学校から、算数の楽しさが凝縮された、思考の本質を問う素晴らしい問題が、毎年たくさん生まれています。

「考える癖」「思考力」というのは、過去問のパターン学習や反復学習では対策しきれません。子ども時代ならではの様々な経験を、いかに知的にわくわくしながら積み重ねてきたのかが問われます。

当社では今後も、子どもたちがわくわくしながら取り組める学びを追求し、アップデートしていきたいと思います。


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川島 慶

代表取締役 COO(チーフクリエイティブオフィサー)ワンダーファイ株式会社
東京大学大学院工学系研究科修了。算数・数学好きが昂じて学生時代よりベストセラー問題集「なぞぺ〜」の問題制作に携わる。2007年より花まる学習会で4歳から大学生までを教える傍ら、公立小学校や国内外児童養護施設の学習支援を多数手掛ける。2014年株式会社花まるラボ創業(現:ワンダーファイ)。 開発した思考力育成アプリ「シンクシンク」は世界150カ国250万ユーザー、「Google Play Awards」など受賞多数。2020年にSTEAM領域の通信教育「ワンダーボックス」を発表。算数オリンピックの問題制作に携わり、2017年より三重県数学的思考力育成アドバイザー。