ワンダーラボ 中学入試算数 良問大賞2021

120万人が使う思考センス育成アプリ「シンクシンク」や、STEAM教育の家庭学習教材「ワンダーボックス」など、子どもの「知的なわくわく」を引き出すようなアプリやコンテンツを作る会社、ワンダーラボ。

代表の川島は、算数オリンピックの問題作成や、ベストセラー問題集「なぞぺ〜」の制作も手がけており、「中学入試算数は重要文化財だ!」と言うほどの数学・算数オタク。ワンダーラボのコアバリューも「数式」で定義しているほどです。これまでも独自に中学入試速報を毎年行い、その年の出題傾向や良問などをまとめたコラムを発信してきました。

そんなワンダーラボでは、昨年から「さらに中学入試算数の問題の奥深さ、美しさを知ってもらいたい!」という思いで、川島の独断と偏見で選ぶ「中学入試算数 良問大賞」を発表しています。今年も、一人でも多くの方にわくわく溢れる中学入試算数の世界を知っていただいたり、「いやいや、この問題も素晴らしかった!」などの議論が盛り上がるきっかけとなれば幸いです。

尚、各校の問題と解答については、こちらの記事をご覧ください。

・対象となる問題は筆者が確認できたものに限定されており、全ての入試問題ではありません。
・ワンダーラボが公開している中学入試速報については、掲載学校にすべて許可を得た上で問題を入手・解答を掲載しております。また、本発表はワンダーラボによる独自の選出であり、各学校と一切の関係はなく、金銭的な対価の発生も一切ありません。

ワンダーラボ代表 川島 慶による2021年中学入試算数統括

コロナ禍による緊急事態宣言という先行きの見えない中で迎えた2月。今年の中学入試算数では、未知の問題に対して試行錯誤からの発見を中心として立ち向かっていく、算数や考えることの面白さを凝縮したような問題が、特に最難関校で非常に多かったです。

中学入試算数では、20年以上前から上記のような思考力を必要とする問題が出題されてきましたが、近年は特にこの傾向が顕著になっています。単に知識を増やしたり、定型的なパターンを反復・再現することではなく、正しい理解に根ざした、考えることの楽しさを味わった学習をしてほしい、という学校側の主張がより明確になっていると感じます。

また、考えられる数値や組み合わせを「すべて答えなさい」という出題形式が増えてきたことも近年の中学入試の特徴であり、思考力を問う流れと一致します。この出題形式は、栄光学園が15年ほど前から意識的に使いはじめました。これは、複数ある解答のうちいくつを探し当てられるかを見ることで、その子の試行錯誤の筋の良さや隈なく思考できているかどうかを、たった一回のテストという機会で、なるべく正当に評価できる点で非常に優れています。

中学入試算数では「解答の過程をすべて記述させる」形式が一般的ですが、これには「考える過程を徹底的に言語化する」というトレーニングが求められます。多くの小学生にとって、全ての思考を言語化して記述するという行為は負荷が高く、時期的に適切ではないことも、上記の「答えを全て書き出す」出題形式が増えた一因ではないかと思います。

ここ数年、こうした良い問題や良い出題形式が、中学入試全体を取り巻く文化として伝播していっていると感じます。そして、そうした文化に影響を与える筆頭の存在である開成中の問題が、個人的に歴代で最も素敵な内容であったことも、今年の入試を見て大きく印象に残ったことです。

こちらの記事のように、受験対策として出題傾向をパターン化する無限ループがあります。その反復学習を強いられることで、中学受験に取り組む子どもの負荷は年々高まっていました。しかしながら、有名難関校の入試が純粋に思考力を問う内容にシフトすることで、他校もそれに追随し、受験対策のカリキュラムが見直され、子どもの学びが算数本来の楽しさを噛み締められるような健全で素晴らしいものになっていくことに対して、筆者は希望を持ちました。

 

ワンダーラボ 中学入試算数 良問大賞2021

良問大賞2021 グランプリは、豊島岡中の問題です。

見たことのない数列ですが、とても美しいシンプルな数学的性質が隠れています。素数を小さい順に並べた時、隣り合う素数の積がこの数列の中に必ず現れ、その時に隣り合う項の差が変化します。2021が43×47で表される事実が巧妙に問題を解く背景になっていることも見事です。

ここからは、テーマ別に各賞を紹介していきます。

テーマ別 部門

美しい数学の性質が背景にある問題ですが、知識として知っていた受験生はごくわずか、もしくはいなかったでしょう。

小数4位ごとに、0001 0002 0004 0008 0016・・・のように、2の累乗になっていく性質がある(テイラー展開、無限等比級数、が関連するテーマになります)のですが、2の累乗の結果が5桁を超えると、繰り上がりが生じてくることが、事態を複雑にしています。小数第96位を求めるには、23乗、24乗、25乗の数値の必要な部分を適切に反映させる必要があります。

女子学院は難関校受験に求められる単元のオーソドックスな理解を、無理なく問う良問が多いことで知られています。

この問題では、向かい合う面との合計が7にならない、という必要条件から、5、4、3、2が正解となりそうなのですが、3だけは実際に試してみると、うまく問題の条件を満たすように他の面の数が具体的に決まりません。このように、十分条件が絶妙に求められる問題は入試全体でなかなか出題されないのですが、とてもシンプルな設定で無理なく求めているところが素敵です。

素数、相異なる二つの素数の積、双子素数(差が2の素数のペア)が題材になっています。 2021年が43、47と二つの素数の積で表されることも、本問の出題のきっかけになっているのでしょう。後半では、筋のいい探し方をしていくと、割と短時間で調べられます。

例えば、最後の問題で言うと、「◯以上の双子素数の□が△の倍数ではない☆の倍数の2倍」周辺だけ調べればいいということがわかります。明確に理屈の言語化は求めずとも、直感的にそのようなことを捉えて試行錯誤することは、算数の面白さそのものであり、問題の導入やヒントを含めて美しい問題です。「すごく大きい数を答案に書いたら、これって採点者は×にできるの?」という隙をあえて残していることも面白く、実際に、想定解である213から始まる7つの数の次には、143097からの7つの数が答えにもなります。



筆者も同様の問題を見たことのない斬新な問題ですが、問われていることは、体積、表面積、相似に関しての正しい理解です。向きを変えても体積は変わらないので、どの面を底面にしても側面の相似比は変化しないことになります。ありそうでなかった、見事な出題です。

円周率が3.05より大きいことを証明せよ。という、2003年に東大で出題された有名問題のエッセンスを、小学生にも無理なく解けるようにアレンジした問題です。過去には、2009年に逗子開成が似た趣旨の問題を出題しています。

ここからは、中学入試算数の単元毎に選出した問題です。

分野別 部門

空間図形分野としての選出ですが、場合の数との複合問題です。もれなくダブりなく数えきるのが非常に難解な場合の数の問題は、同校名物の一つですが、本問がまさにそれにあたります。空間でなく、正方形を3つ繋げた8点について考えるだけでも相当難解です。それに加えて、同一平面、ねじれの位置、に関する十分な理解が求められています。

受験生は通過領域・軌跡の問題に数多く触れてきたことと思いますが、「正三角形を、向きを保ったまま、円から離れないように円の周りを一周動かす」という操作を行ったことのある受験生はほぼいなかったでしょう。

これを解いた経験があることが大事なのではなく、あくまで通過領域の基本から、「向きを保ったまま円から離れないように円の周りを動かす」こととはどういうことかを試行錯誤することが求められています。

複雑なルールのカードゲームを、(1)(2)で正しく反映して、答えとして出る数字が、AとBの2進法における和であることを着想しないと、後半の問題で正答を短時間で導き出すのは難しいです。そこに気づいたとしても、(5)で正答を短時間で導くためには、求められているBの手札と一対一対応する別の指標を考える必要があります。カードゲームという見えにくい設定の中で、整数(N進法)の背景が隠れている、過去に類のない、最高水準の出題です。

桜蔭の問題は、大部分が思考力を問われる問題で、同時に、例年通り長文の意味をくまなく読み取ることや、煩雑な計算や処理を早く正確にできることも求められる、男子校共学合わせても最高レベルにタフな入試です。

この問題では、回転対称なものは同じ模様としつつも、折り返して対称になるものは別の模様として、もれなくダブリなく数えるのが非常に煩雑です。

 

以上、ワンダーラボ 中学入試算数良問大賞 2021でした。

 

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

ご覧いただいた通り、各学校から、算数の楽しさが凝縮された、思考の本質を問う素晴らしい問題が、毎年たくさん生まれています。中学入試そのものの是非や意義については、様々な見解がありますが、中学入試における算数問題の素晴らしさは、日本が世界に誇れる「文化」だと筆者は常々感じています。

中学受験に携わる指導者の方々には、過度に過去問のパターン学習・反復学習を強いるのではなく、いかに子ども達が算数の楽しさを噛み締めながら学べるか、という点に今一度、目を向けていただければ嬉しく思います。

当社では今後も、子どもたちがわくわくしながら取り組める学びを追求し、アップデートしていきたいと思います。是非ともご期待ください。

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川島 慶

川島 慶

代表取締役 CEOワンダーラボ株式会社
東京大学大学院工学系研究科修了。算数・数学好きが昂じて学生時代よりベストセラー問題集「なぞぺ〜」の問題制作に携わる。2007年より花まる学習会で4歳から大学生までを教える傍ら、公立小学校や国内外児童養護施設の学習支援を多数手掛ける。2014年株式会社花まるラボ創業(現:ワンダーラボ)。 開発した思考力育成アプリ「シンクシンク」は世界150カ国100万ユーザーを持ち、「Google Play Awards」など、国内外で受賞多数。過去に、東京大学非常勤講師を務める。毎年算数オリンピックの問題制作に携わり、2017年より三重県数学的思考力育成アドバイザー。