算数・数学を愛してやまず、算数オリンピックの問題制作やベストセラー問題集「なぞぺ〜」の制作を手がける、ワンダーラボ代表・川島。中学入試「良問大賞」や、毎年の東大入試数学コラムなども好評の川島による、2020年東大入試数学の講評です。
従来のレベルに回帰した東大数学
昨年、少なくとも過去60年の中で、初めて「純粋な計算問題」を出題したことで話題になった東大入試数学ですが、今年はどの大問も完答が難しいレベルの6問で構成されました。
純粋な計算問題の出題をはじめ、ここ3年間、従来の入試問題に比べて取り組みやすい問題が数題ずつ出題されていた東大入試。その出題側の葛藤にはこちらの記事で触れましたが、今年は、全体的に従来の難易度に戻し、その代わり、他教科が得意な受験生のために、点を取りやすい小問が用意されていた、という印象です。
過去60年の東大入試数学を味わってきた身として、東大入試全般についての筆者の見解は、こちらの記事に記載しておりますが、昨年、おそらく初めて本学が出題意図を公表しています。
要旨としては、
数学は自然科学の基底的分野として、自然科学に留まらず人間文化の様々な領域で活用される学問であり、科学技術だけでなく社会現象を表現し予測などを行なうために必須である。
高等学校学習指導要領に基づく基本的な数学の知識と技法について習得しておくことはもちろんのこと、 将来、数学を十分に活用できる能力を身につけるために、数学的に思考、表現する力を身に付け、様々な課題に自由自在に活用し、幅広い分野の知識・技術を総合的に問題を捉える力を育んできて欲しい
というものです。近年注目されているSTEAM教育の定義とも関連しますね。
東大が一貫して求めてきたもの。それは、「正しい理解」に主眼を置いた学習です。
同校の入試では、一見、複雑で難解、見たこともないような問題が出題されます。しかし、これらの問題は、本質を正しく理解していれば、極めて自然に解ける、「誠実な難問」とでも呼ぶべき、正当な厳しさを伴った良問なのです。
こういった問題は、本質的な理解を犠牲にして、解法・パターンを丸暗記する「努力型」の学習をしてきた受験生にとっては成果の表れにくい問題です。
その代表ともいえる出題が、今年の大問2でしょう。
誘導がないため、これまで習得したどの知識を用いるかに悩んだ受験生も多いことと思いますが、実際は、問題が分かりやすく提示されていれば小学生の知識でも解答可能な問題です。
この大問2をはじめ、図形に関する問題が、今年の大問6問中、実に4問を占めました。図形が絡むと、反復学習だけでは成果の表れにくいバリュエーションが生まれやすいことも一因でしょう。
こういった問題に立ち向かえること、言い換えれば、東大側が身につけてきて欲しい力を育むには、幼少期から受験期に至るまで、やらされるタスク、作業として数学に取り組むのではなく、知的躍動を伴った主体的な学習が前提になるでしょう。
一生を彩る糧となる、知的な躍動に溢れた学びを。
毎年申し上げていることにはなりますが、子ども・生徒の学びに関わる私たち・大人は、彼らの有限で貴重な時間が、一生を彩る糧となる、知的な躍動に溢れる時間に変わり、その本来持っている可能性が引き出されていくためのサポートをしていくことこそが、大切だと考えています。
素晴らしい問題やそうしたサポートによって、感性や考える力、新たな課題を作り出す力を引き出された子どもたちは、きっと私たちや世界をあっと驚かせるような、新しい時代を創っていくことでしょう。
今年、弊社は社名を花まるラボからワンダーラボへと改めました。
ここには、世界中の子どもから知的な躍動・わくわく=”Wonder”を引き出すような教材・体験を届けていく、という想いがあります。
学びに関する体験やコンテンツを生み出す立場として、子どもたちの知的躍動を引き出し、考えることが好きでたまらなくなるようなものを、これからも生み出し続けていきたいと思っています。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
川島 慶
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