カンボジアにおける2022年実証実験レポート
カンボジア国内のモデル校9校・計3,300名の児童(小学4~6年生中心)を対象に、10ヶ月間にわたり実証実験を行った結果、算数の学力テストやIQテストで計測された認知能力や、非認知能力のうち内発的動機づけや自尊感情、学習時間において、シンクシンク実施群が非実施群に比べ、有意な効果があることが認められました。
▼背景
カンボジアでは、主にポル・ポト政権時代に多大な打撃を受けた教育環境の整備、学力の向上が国家の最優先課題となっています。2014年の高校卒業試験の合格率は僅か26%、その後、ハン・チュオンナロン現教育大臣による政策により大幅な改善を見せているものの、いまだに人材競争力の強化は喫緊の課題です。
カンボジア政府はシンクシンクや同教材に用いられている教育的な知見が、カンボジアの抱える教育課題の解決を幼少期の教育からサポートできる可能性があると評価し、ナショナルカリキュラムへのシンクシンク導入検討のため、2018年より効果検証のプロジェクトがスタートしました。
2018年に行った実証実験では、実験開始から3ヶ月後に行われたカンボジア国家学力テスト(算数)において、シンクシンク実施群が非実施群に比べ、偏差値にして平均約6.9ポイントの向上が認められました。加えて、国際的な学力調査として知られるTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)では平均約6.0ポイント、IQテスト(田中B式)では平均約8.9ポイントもの向上が確認されました。
2022年に行った今回の実証実験では、パイロット校の規模を拡大し、より大規模で長期的な実証実験を行い、シンクシンクが認知能力だけでなく非認知能力(自尊心やモチベーションなど)に及ぼす影響を調査しました。
▼実証実験結果サマリー
実証実験は、カンボジア国内のモデル校9校・計3,300名の児童(小学4~6年生中心)を対象に、10ヶ月間にわたり実施されました。
①認知能力の測定結果
- 4年生の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)で偏差値が2.87ポイント向上
- 5年生のIQのスコア(田中B式)で偏差値7.17ポイント向上
- 6年生の国家統一試験(NAT)で偏差値3.28ポイント向上
これらの結果は、他国で実施されたコンピュータ支援教育の実験結果と比較しても効果が著しく、また児童の性別や学年、保護者の学歴によらず、等しく効果が出ていることも特筆すべき点です。
②非認知能力の測定結果
- 内発的動機づけが0.136標準偏差向上
- 自尊感情が0.122標準偏差向上
- 学習時間が8.125分増加
これらの結果は、教育において非常に重要でありながら効果の証明が難しい非認知能力の領域においても、「シンクシンク」が有意義な成果を上げたことを示しています。
【本実証実験についての中室研究室によるコメント】
私たちの研究室では、カンボジアの公立小学校で約3,300人を対象に、シンクシンクが学力に与える効果の検証を外部評価を担当しました。
シンクシンク学習の実施に際し、導入前にベースライン調査、導入後にエンドライン調査を実施して効果測定を行っています。分析手法はRCT手法(Randomized Controlled Trial)を用いて、シンクシンク実施群(Treatment Class)とアセスメントのみを行う対照群(Control Class)の比較評価にて検証しました。
今回、効果検証を実施したところ、4年生から6年生の認知能力や、非認知能力のうち内発的動機づけや自尊感情、学習時間に対して有意な効果が認められました。認知・非認知能力ともに有意で大きな効果が確認できたことは、正常な学習環境で十分な時間、シンクシンク学習を実施できれば、期待される効果が発現することを示唆しています。
なお、この分析にかかわった当研究室のメンバーは、ワンダーファイから一切の金銭的報酬、研究助成金、株式等は得ておらず、申請中の特許もありませんので、開示すべき利益相反はありません。
中室牧子(なかむろ まきこ)|プロフィール
慶應義塾大学総合政策学部教授。
慶應義塾大学卒業後、日本銀行、世界銀行などでの実務経験を経て現職。コロンビア大学でPh.D.取得。専門は教育経済学。産業構造審議会委員、規制改革推進会議委員を兼任。著書はビジネス書大賞2016準大賞を受賞し発行部数30万部を突破した「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、 週刊ダイヤモンド2017年ベスト経済学書第1位の『原因と結果』の経済学」 (共著、ダイヤモンド社)など。
▼実証実験概要
実験方法・対象について
対象児童をシンクシンク実施群(1,747名)と非実施群(1,553名)に分けた比較評価にて検証を行いました。
・分析手法:RCT手法
・パイロット対象校:9校
・学習期間:2022年1月上旬~10月下旬に亘り、通算10か月。
(ただしWat Bo校は2022年7月上旬にパイロット学校として追加したため、7月中旬から10月下旬まで)
・「シンクシンク」の実施回数:パソコンの授業中に週1~2回(児童一人あたり20分/回)
・ベースライン調査の実施時期:2022年1月
・エンドライン調査の実施時期:2022年10または11月。
実験については、慶應義塾大学・中室牧子研究室に外部評価を受けております。
効果測定方法について
<認知能力の効果測定方法>
・4年生:TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)
・5年生:IQテスト(田中B式)
・6年生:NAT(国家統一試験)の過去問題
<非認知能力の効果測定方法>
・児童向けアンケート:学習習慣等の確認、並びに自己承認力等の非認知能力調査
・親向けのアンケート:児童の属性、両親の所得水準等の背景調査
▼実証実験レポート詳細
実証実験レポート詳細は、こちらをご覧ください。
・2018年実証実験レポート
「CAI(Computer-aided instruction)は生徒の認知能力を上昇させるのか?」
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/19e040.html
ワンダーファイは、「世界中の子どもたちが本来持っている知的なわくわくを引き出す」ことをミッションとしています。
今回の実験結果を通して、意欲や思考力に働きかける教材が、学力のみならず非認知能力にも大きな効果を与えることが確認されました。今後も、子どもたちがわくわくしながら学べる、新たな教材や体験を作り出していきます。
ワンダーファイ
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