100万人が使う思考センス育成アプリ「シンクシンク」や、STEAM教育の家庭学習教材「ワンダーボックス」など、子どもの「知的なわくわく」を引き出すようなアプリやコンテンツを作る会社、ワンダーラボ。
代表の川島は、算数オリンピックの問題作成や、ベストセラー問題集「なぞぺ〜」の制作も手がけており、「中学入試算数は重要文化財だ!」と言うほどの数学・算数オタクで、ワンダーラボのコアバリューも「数式」で定義しているほど。これまでも独自に中学入試速報を毎年行い、その年の出題傾向や良問などをまとめたコラムを発信してきました。
そんなワンダーラボが、今年から「さらに中学入試算数の問題の奥深さ、美しさを知ってもらいたい!」という思いで、川島の独断と偏見で選ぶ「中学入試算数 良問大賞」をはじめます。一人でも多くの方にわくわく溢れる中学入試算数の世界を知っていただいたり、「いやいや、この問題も素晴らしかった!」などの議論が盛り上がるきっかけとなれば幸いです。
尚、各校の問題と解答については、こちらの記事をご覧ください。
・対象となる問題は筆者が確認できたものに限定されており、全ての入試問題ではありません。
・ワンダーラボが公開している中学入試速報については、掲載学校にすべて許可を得た上で問題を入手・解答を掲載しております。また、本発表はワンダーラボによる独自の選出であり、各学校と一切の関係はなく、金銭的な対価の発生も一切ありません。
ワンダーラボ代表 川島 慶による2020年中学入試算数統括
令和時代の幕開けとなった今年は、特に斬新な出題が多かったように感じます。
今年の入試問題を振り返ると、必要とされる前提知識は変わらずとも、子ども達に思考を促すような、趣ある問題が数多く出題されました。そして、それは知識が絶えずアップデートされていく現代において、良質な「解くべき課題」が指数関数的に生まれていくことも意味すると筆者は考えます。
さらに今年は、目新しい問いのみならず、例年は問われなかったような「原点回帰」ともいえる出題も垣間見られました。
ワンダーラボ 中学入試算数 良問大賞2020
良問大賞2020 グランプリは、開成中学校の問題です。
立方体に窓が二つあり、出題の条件から光がどのように当たっているかを推察し、他の影の位置を特定する、ありそうでなかった出題です。高度な空間認識力を要しますが、必要とされている知識は中学入試に挑戦する子どもの多くが持っている知識です。問われていることは非常にシンプルで、必要な前提知識も限定されている一方、過去に例を見ない「ありそうでなかった」こちらの出題は、今年の中学入試を代表する問題と言えるでしょう。
ここからは、テーマ別に各賞を紹介していきます。
テーマ別 部門
誘導にしたがって、「時針、分針、秒針のいずれか2本がぴったり重なるときに、 重なっている2本の針ともう1本の針が最も近づく時はどんな時か」という、今まで取り上げられたことのない真理を探究する問題です。 (3)で、時針と分針が重なる時に、時針と秒針が最も近づく時を考えますが、これを利用して考えると(4)の答えがスマートに求まります。とはいえ、それを用いる着想や、着想したとしても「果たして最も近づくと言えるのだろうか」、あるいは「それをどう用いるか」と思考を巡らせることを考えると、非常に高度な課題です。 秒針も考慮に入れるとなると計算が複雑になると感じますが、工夫すれば実はそれほど複雑な計算ではありません。
2020で割った時の小数第2020位が3となるような数を、誘導つきで答える問題です。今年、「2020」に因んだ、時宜を得た問題が出題されるであろうことは、多くのサイトでも事前に予想されており、多数の予想問題があげられていました。確かに、「2020=101☓20」であることを考えれば、問題を量産できそうではあります。
そんな中で、この問題は他のどんな問題ともかぶらない、かといって複雑すぎるわけでもない、おしゃれな問題でした。(1)からの誘導も見事でした。
女子学院中学校は難関校受験に求められる単元のオーソドックスな理解を、無理なく問う良問が多いことで知られています。そして今年は、逆数と円周率の定義を穴埋め形式で答える問題が出題されました。このような問題は知識問題だと軽視されるかもしれませんが、算数・数学において、定義を正確に把握していることはとても大切なことで、それなくして、自由自在に応用することはできません。とかく斬新な切り口の出題が目立ちやすい中で、そのような「原点回帰」へのメッセージが、出題意図としてあったのかもしれません。
「あまりのある割り算」の答え方について、等号本来の意味からすると正確でない、ということを風刺している問題です。現状の算数教育について、問題提起を行っているようにも思えます。
(等号は、左辺と右辺が同じであることを意味しますが、これを下の式に適用すると、29÷7=37÷9となり、これは明らかに誤りである。)
ここからは、中学入試算数の単元毎に選出した問題です。
分野別 部門
同校名物である「見たこともないような展開図を組み立て、その体積を考えさせる」問題ですが、中学入試史上最高レベルに美しい形で、おしゃれな出題です。難易度としても、同校の最終問題としてふさわしいと感じます。
(こういった問題は、イメージ力勝負の部分があり、問題集や演習をいくら重ねても、イメージできない子どもにとっては太刀打ちできない世界がありました。少し宣伝になってしまいますが、デジタルの力を使って、「デキる子の感覚を疑似体験」させることができれば、誰でもイメージ力を身に付けることができると考え、立体図形に特化したアプリ「究極の立体」シリーズを今年度リリースしました。ご覧いただければ嬉しく思います。)
いくつかの種類の平面図形で平面全体を敷き詰めることは、平面充填と呼ばれ、古くから数多く研究されているトピックです。しかし、一点の周りを数種類の多角形で重ならないように並べる、というテーマは、試験時間内に取り組める良問でもありながら、かつて見たことのない問題です。今回の出題では、問いとして与えらえる図形種類は1〜3種類ですが、これが4種類だったらどうなるのだろう?など、異なる観点での疑問も生むような素晴らしい問題です。
パスカルの三角形には、並んでいる数を各行で見ていくと、11の倍数が隠されているという、美しい数の性質がありますが、それを見事にアレンジした問題です。こちらも、「整数」問題としては類を見ない、とても趣向を凝らした問題と言えます。
一見、シンプルな「速さ」問題のように見えますが、状況をうまく解釈して、整数問題に変換する必要があります。 後半は、8の字の動きを解釈するという観点で、設定はシンプルながらも、斬新かつ「整数」分野としては最高水準の問題です。
日常的に接している「お金を払う」という行為を、誘導に従って抽象化することが求められる、見事な出題です。 最後の問題は、一つひとつ書き出していては、到底、時間内に終わらないでしょう。 大枠を捉えたうえで、ミスなく詰め切ることが要求されていますが、ただ単に煩雑なのではありません。裏にある構造が見えれば、単純なミスが起こりにくいように配慮された問題です。 算数を愛する筆者としても、あっぱれな出題です。 今年の「場合の数」分野の問題を代表する出題でしょう。
以上、ワンダーラボ 中学入試算数良問大賞 2020でした。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
ご覧いただいた通り、各学校から、算数の楽しさが凝縮された、思考の本質を問う素晴らしい問題が、毎年たくさん生まれています。中学入試そのものの是非や意義については、様々な見解がありますが、中学入試における算数問題の素晴らしさは、日本が世界に誇れる「文化」だと筆者は常々感じています。
中学受験に携わる指導者の方々には、過度に過去問のパターン学習・反復学習を強いるのではなく、いかに子ども達が算数の楽しさを噛み締めながら学べるか、という点に今一度、目を向けていただければ嬉しく思います。(パターン化学習によるいたちごっこの構造については過去の記事でも触れていますので、ご興味あれば以下の記事も、合わせてご覧ください。)
当社では今後も、子どもたちがわくわくしながら取り組める学びを追求し、アップデートしていきたいと思います。是非ともご期待ください。
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川島 慶
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