ワンダーラボ 中学入試算数 良問大賞2022

150ヶ国200万人以上のユーザーが使う思考力アプリ「シンクシンク」やSTEAM領域の教育プログラム「ワンダーボックス」など、子どもの「知的なわくわく」を引き出すようなアプリやコンテンツを作る会社、ワンダーラボ。

代表の川島は、算数オリンピックの問題制作や、ベストセラー問題集「なぞぺ〜」の制作も手がけており、「中学入試算数は重要文化財だ!」と言うほどの数学・算数オタク。ワンダーラボのコアバリューも「数式」で定義しているほどです。これまでも独自に中学入試速報を毎年行い、その年の出題傾向や良問などをまとめたコラムを発信してきました。

そんなワンダーラボでは、2020年から「さらに中学入試算数の問題の奥深さ、美しさを知ってもらいたい!」という思いで、川島の独断と偏見で選ぶ「中学入試算数 良問大賞」を発表しています。今年も、一人でも多くの方にわくわく溢れる中学入試算数の世界を知っていただいたり、「いやいや、この問題も素晴らしかった!」などの議論が盛り上がるきっかけとなれば幸いです。

尚、各校の問題と解答については、こちらの記事をご覧ください。

・対象となる問題は筆者が確認できたものに限定されており、全ての入試問題ではありません。
・本発表はワンダーラボによる独自の選出であり、各学校と一切の関係はなく、金銭的な対価の発生も一切ありません。

ワンダーラボ代表 川島 慶による2022年中学入試算数統括

筆者が定義するところの「誠実な難問」である良問は、年々増えていると感じておりますが、今年は過去最高数かもしれません。

「誠実な難問」とは、「一見、似たような問題や設定を見たことはないものの、本質を正しく理解しており、基本的な知識をもとに試行錯誤できれば、極めて自然に解ける、正当な厳しさを伴った問題」です。

要するに、基本的な知識の正しい理解に根ざした、思考力が問われる問題です。

このような問題では、重箱の隅を突くような知識が試されるのではなく、解法・パターンを丸暗記する学習では対応しづらい、あるべき学習が試されることになります。

ちなみに「誠実な難問」は、入試数学では東京大学が一貫して出題しており、特徴を表す問題でもあると筆者は考えています。詳しくはこちら。

年々、STEAM教育*という言葉を聞く機会が増えております。今回取り上げる学校の入試では、言われたことを言われたとおりに再現したり、網羅的に学習することではなく、未知なる課題に意欲的に取り組めるか、自ら課題を創造できるか、算数という題材をわくわく学んできたか、等が問われています。こうした出題傾向は、各学校が過去20年以上にわたり積み重ねてきた文化であるため、令和になって突然変化した、という訳ではありません。しかしながら、こうした問題の数が増えているのは、時代の要請でもあるのでしょうか。

*今後の社会を生きる上で不可欠になる科学技術の素養や論理的思考力を涵養する 「STEM」の要素に加え、そこに、より幸福な人間社会を創造する上で欠かせないデザイン思考や幅広い教養、つまりリベラルアーツ(Arts)の要素を編み込んだ学びの教育

このように、良問や良い出題形式が、中学入試全体を取り巻く文化として近年伝播していると感じます。そして、そうした文化に影響を与える筆頭の存在である開成中学の入試問題が、3年連続で非常に素晴らしい出題であったことは、良問や良い出題形式の伝播を今後も後押ししていくでしょう。

2018年に書いた記事のように、難関校が「目新しい問題」を出題すると、受験塾が出題傾向をパターン化して対策するといういたちごっこが起こります。中学受験に取り組む子どもたちは、こうしたパターン化された対策の反復学習を強いられることで、学習負荷が年々高まっていきました。しかし、有名難関校の入試が「誠実な難問」を中心にした出題により一層近づくと、他校もそれに追随し、受験対策のカリキュラムは見直されます。子どもの学びが、算数本来の楽しさを噛み締められるような、健全で素晴らしいものになっていくことに対して、筆者は希望を持っています。

ワンダーラボ 中学入試算数 良問大賞2022

良問大賞2022 グランプリは、女子学院中の問題です。

目新しい問題ではないものの、突飛でもなく、難しすぎることもなく、分量的にも配慮されている。シンプルな「誠実な難問」の代表例として、この問題を選出しました。

同校は、難関校受験に求められる単元のオーソドックスな理解を無理なく問う問題を中心に例年構成されていますが、近年は更に、シンプルながら「誠実な難問」でもある出題が目立っています。

この問題は、素数、素因数分解への正しい理解を背景に、与えられた条件が当てはまる状況を試行錯誤で導き、その結果と問題の前提条件を統合して、解像度高く把握することが求められる、シンプルながら素晴らしい問題です。
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ここからは、テーマ別に各賞を紹介していきます。

テーマ別 部門


日常的なテーマの一つであるお釣りのもらい方は、中学入試算数でもよく取り上げられるテーマですが、おつりが硬貨1枚や2枚となる金額を調べあげるのは、ありそうでなかった面白い出題です。

おつりが効果2枚となる金額を調べ上げるのは、おつりをもらわない金額、おつり1枚となる金額から積み上げて考える必要があり、面白い反面非常にタフですが、おつり3枚となる金額が極めて少ないので、それを調べて全体から引く、という解き方もできます。

日本の硬貨でなく、3進法の硬貨にしている理由は、構造をシンプルにすること(日本硬貨の場合、5円玉の存在が10進法に対して特殊)と、別解の解き方を思いつけば、少し楽に解けるからといった理由でしょうか。
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トラップというと、もしかするとあまり良い印象を持たない方もいるかもしれませんが、もちろんポジティブな意味で言葉を選んでいます。良質なひっかけが用意されている、ということですね。

後半部分(円柱と円錐の積み重ね)を取り組みやすくするために、前半部分(立方体の積み重ね)が用意されていますが、前半の結果自体を後半に応用しようとすると、最大や最小にならない、という見事なひっかけがあります。

ルールを正確に把握した上で、創造的に状況を打開し、本当に条件に当てはまるのか、を確認しつつ解答することが求められます。今年の中学入試における同分野を代表するような、最高難度の問題でした。
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2022という数値が扱われている問題で、最も面白かった問題を表彰します。

2022までの自然数Nと、その各位の数の和であるS(N)に関して、NがS(N)で割り切れる状況が最終問題で、S(N)として考えられるものの中で、大きいものから3番目の値と、その時のNをすべて求める、といった問題です。

割り切れることを考慮しなければ、S(N)は最大1 + 9 + 9 + 9 = 28 で、これは割り切れません。3番目に大きいとなると、何度も試す必要があるかと思いきや、思ったよりも早くそのような数は見つかり、数の神秘のようなものを感じました。

このことを発見し、題材にしたことと、それに気づかせる設問が素晴らしいと思いました。
(特にマニアックですので、意図が伝わり切らずとも、どうか笑い飛ばしてください)
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1から10までの整数を1つずつ使って、分数の足し算や掛け算を行う、というシンプルでキャッチーな設定で、前提知識はほぼ必要ありません。ですが、計算が煩雑にならない工夫や、おおよその検討をつけること、範囲を絞ること、発見を抽象化させることなどが必要で、単に場当たり的に試すのではなく、これぞ試行錯誤の筋の良さが求められている!と感じる問題でした。

言われたことを再現するのではなく、とにかく自分の手で、頭で、試行錯誤を楽しみ考えてきたか、が問われていると思います。 
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ここからは、中学入試算数の単元毎に選出した問題です。

分野別 部門

道順の問題は、意味を理解していなくても、言われた通りに足し算していく等、やり方さえ覚えていれば解ける問題が少なくないのですが、それを見事に崩した問題ですね。崩した、といっても、本来の道順に対する正しい理解があれば、極めて自然に解ける、誠実な難問です。

この道順からの派生パターンの問題は、2017年に灘中での出題を皮切りに、開成や筑駒などで次々と面白い問題が登場した、ひとつのトレンドでもあります。
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更に言うと、このテーマは個人的に思い出深く、筆者が今の仕事をするきっかけになった問題です。

花まる学習会代表の高濱正伸さんが、2007年「こんな問題作ってみないかい」*という求人広告を出していて、それを上記の理由でとても面白いと思い応募したのが、花まる学習会と最初の接点であり、筆者が教育業界に足を踏み入れた第一歩でもあります。

*求人広告に出されていた問題

昨年グランプリに選出した同校ですが、今年の整数問題も面白かったです。2と5の素数の積だけを小さい順に並べた数列を題材にした問題です。

最後の問題は、この数列に現れる数のうち、差が7392になる数の組み合わせを見つける、という問題ですが、もちろん場当たり的に見つけるのは極めて困難です。とりあえず7392を素因数分解してみた受験生は一定数いると思いますが、「7392を素因数分解して2と5が含まれていない部分はどういった意味をもつのだろう」ということを、絶妙に考えさせる、素晴らしい問題です。
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長年に渡り、最後の大問が独特な空間図形の問題である同校ですが、今年は、「”立方体に内接する正八面体” に内接する立方体」が、元の立方体とどういった体積の関係にあるかを、導入をもとに解明していく問題でした。

導入が非常に秀逸で、設問順に考えていけば、無理なく楽しく考えられる問題でした。
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正確な時刻を表さない時計の問題で、目新しい出題です。

よくある出題のタイプでは、一定の割合で進んだり遅れたりする時計を題材にするのですが、今回は、正確な時計と、常に5分遅れている時計との長針短針の角度の関係が題材になりました。誠実な難問の代表例のような問題であり、同校が好んで出題するタイプの問題でもあります。
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4ページに渡る壮大な問題に見えますが、前半に回答を要求された2つのグラフが、後半の大ヒントになっています。

そしてそこに気づいてしまえば、短時間で答えに辿りつけるため、限られた時間でできるだけ多様な出題をしたい入試問題にふさわしい、見事でお洒落な問題だと思います。
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以上、ワンダーラボ 中学入試算数良問大賞 2022でした。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

ご覧いただいた通り、各学校から、算数の楽しさが凝縮された、思考の本質を問う素晴らしい問題が、毎年たくさん生まれています。中学入試そのものの是非や意義については、様々な見解がありますが、中学入試における算数問題の素晴らしさは、日本が世界に誇れる「文化」だと筆者は常々感じています。
 
すばらしい問題やその文化は、学校間だけでなく、子どもたちにも伝わっています。今年それを象徴する出来事として、筆者の母校である栄光学園の生徒で、現在中学2年生の浅野佳広さんが、本物そっくりの入試問題を手書きで自作して、朝日新聞に紹介されるに至る反響がありました。
参照:川島のFacebook投稿

こちらの栄光学園の講評に、番外編として浅野さんの作成した全問題とその素晴らしさを記載しておりますが、全問題が良問大賞に選出されていてもおかしくなく、この問題を見た学校の先生たちの出題のあり方を変えるかもしれないほどの問題の質、および入試問題としての完成度です。

重ねてになりますが、このように、良問や良い出題形式が、中学入試全体を取り巻く文化として近年伝播していると感じます。

中学受験に携わる指導者の方々におかれましては、過度に過去問のパターン学習・反復学習を強いるのではなく、いかに子ども達が算数の楽しさを噛み締めながら学べるか、という点に今一度、目を向けていただければ嬉しく思います。

当社では今後も、子どもたちがわくわくしながら取り組める学びを追求し、アップデートしていきたいと思います。是非ともご期待ください。

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川島 慶

代表取締役 CEOワンダーラボ株式会社
東京大学大学院工学系研究科修了。算数・数学好きが昂じて学生時代よりベストセラー問題集「なぞぺ〜」の問題制作に携わる。2007年より花まる学習会で4歳から大学生までを教える傍ら、公立小学校や国内外児童養護施設の学習支援を多数手掛ける。2014年株式会社花まるラボ創業(現:ワンダーラボ)。 開発した思考力育成アプリ「シンクシンク」は世界150カ国100万ユーザーを持ち、「Google Play Awards」など、国内外で受賞多数。過去に、東京大学非常勤講師を務める。毎年算数オリンピックの問題制作に携わり、2017年より三重県数学的思考力育成アドバイザー。